9月15日、山梨市民会館+オンラインで2024夏季研究会を開催しました。
県内外からの発表者・参加者により、障害の重い子が自分の力で外界とかかわっていくこと、数の基本の学習をどのように進めるかなど、活発に意見交換することができました。
教育先進国のフィンランドでは2010年頃から教育のデジタル化を進め2018年には紙の教科書を止めノートPCに切り替えました。ところが、2022年の調査で子どもたちの読解力、数学的応用力の低下が顕著になり、今また、脱デジタル化へと舵を切り、紙の教科書を使い始めたそうです。スウェーデンも同様に脱デジタル化に踏み切ったとのこと。
私たちの研究会は、木や紙や缶やタイルなどものすごくアナログな教材での子どもたちとの学習について、オンラインで福井、東京、山口、熊本…遠く離れた皆さんと意見交換するという、絶妙な?アナログ+デジタルでやっています。デジタル周回遅れの国であるならそれを逆手にとって、デジタルとアナログを上手に共存させることを考えるのが一番ではないか!と思いました。
【事例Ⅰ】
障害の重いAさんが、ボタンスイッチ、ビー玉入れ、リング抜き、スライディングブロックなど様々な教材を通して、棒・枠・机などの区切りや境界を自分の体を使って探索していきます。それには先生のかかわり方や机という平面、姿勢を考えることが重要でした。スイッチを押してライトがつくと笑顔を見せてくれます。それは自力で外界に働きかけることで何かがわかっていく、自分の力で外界を操作できる、という喜びだったと思われます。スイッチ→ライトという直接的な関係から、スライディングブロックでは少し間接的な関係へと変化します。始点から終点へとたどっていくことにより「間」ができます。逆に言えば「間」を直線的にたどるから始点と終点がはっきりしたということなのでしょうか。
【事例Ⅱ】
Bさんは物を持つとぽんぽんと後ろに投げてしまっていました。それから、缶にボール入れをする学習を始め、紆余曲折がありましたが(これが学習ですよね!)、その缶を右肩のあたりに置きタイミングよく先生が手首のあたりを促すと、投げずに缶の中に玉を入れることができました。それからは持った物を前に落とそうとするようになりました。右肩に載せた缶に自分でボールを入れ、離したボールがどこに行ったかを肩で感じ取り確認できた、だから納得して缶にボールを入れるようになった。人間の体は、例えば両手を握り合わせたとき、一人の人が、触っている人・触られている人の両方になるという複雑さがあります。これを使ってBさんはボールの行き先を確認できたのかな?
そこから始まって、机の上にある缶に物を入れることで前の面ができて…そうすると机を使っての様々な学習に発展させられます。 その後、節分の行事では新聞紙のボールを前のほうに投げることができ、みんなを驚かせたそうです。
【事例Ⅲ】
「5」という数字を見てマグネットを5個並べてほしいと5個に区切ったピンク色の枠を提示しましたが、Cさんは先生の思うようにマグネットを1個ずつピンクの枠に入れたりしてくれません。1つの枠にマグネットを積み上げたりしてしまいます。Cさんはひらがなを読んだり10まで数えたりできるのですが。そこで、ピンクの枠の区切りをなくしました。するとCさんは間違いなく数字のとおりのマグネットを枠の中に並べることができました。ちょっとした違いですが、小さな枠をなくした、のではなくマグネット5個をまとめてとらえる大きなピンクの枠をわかりやすくした、ということだったのですね。「1」が5個集まると「5」になるということ、Cさんはとてもよくわかっています。
【事例Ⅳ】
1~5と6~10は似ている!5のまとまりを使って学習を進めることを試みます。
タイルだけではなくキャップも並べてみる。棒タイルを組み合わせて10を作る。二つの棒タイルを組み合わせて10の棒タイルと同じ長さにする。
「=」同じという概念は、数だけではなく言葉を含め世の中の物すべてを理解していくためにとても重要なことです。同時に「違う」ものもとても大切。「同じ」ものはすでに知っているもの。「違う」ものには未知なものも含まれます。「同じ」ものにはもう名前があって閉じているけど「違う」ものは無数に開いている感じがしてくる。「違う」ものと出会うと少し不安になるかもしれない。
★Jさんの大発見
研究会のまとめで紹介したJさんは、「8-4=4」が「4+4=8」と「似ている!」と大発見して、楽しくて思わず笑い声をあげていました。確かに足し算と引き算は表裏一体、全く同じではないけどよく似ている。子どもたちは自分でこんな発見をしているんだ!と感心させられます。
★しげこさん
中島昭美先生の『人間行動の成りたち』に登場するしげこさんが研究会に参加してくれました。指文字で会話するところを見せていただきました。指文字、点字の学習も毎日続けており、青い鳥成人寮の職員の皆さんだれとでも指文字で正確にやり取りができるそうです。80歳を過ぎてもとてもお元気で、買い物に出かけたり作業活動をしたり、規則正しい日常生活を送っており、コミュニケーションが大好きで何事にも好奇心旺盛なのが元気の源とのことです。昭和27年という時代の、中島先生らとの学習が確かに生きているんですね!
★次回は冬季研究会、2月ごろの予定です。(2024.9.23 間野)