コラム no.5:四角いタイルをなぜ教材に使うのか?

 これといった魅力も面白みもない四角いタイルの教材で、どうして数の学習をするのか?そういえば、ひらがな50音表もたいていは四角いタイルかカードで作ってきた。子どもが興味を持つものを教材に使うのが定説で、タイルなどを使うと、つまらない勉強を子どもにさせている、とよく言われてきました。では、子どもが興味を持つものって何だろうか。そもそも、“興味”って何か? …前回の研究会で改めてこんなことを考えさせられました。

 そのZoom研究会では、コミュニケーションのとりにくかったAさんが、教材を工夫することで落ち着いて積極的に学習するようになったという事例を見せていただきました。九州新幹線、ゆふいんの森、あそなどの特急…鉄道オタクのAさんには電車の絵カードを並べる数の学習がぴったりはまり、以前の様子と比べるとずいぶんな成長ぶりでした。ここに至るまでが大変だったことが容易に想像できます。

 そんなAさんの様子を見ていると、そろそろ電車を使わなくても学習が成立していくのではないか、むしろ、Aさんが興味を引かれる“電車”の持つ様々な要素が、これからの学習にはじゃまになっていくかもしれないという気がしてきました。後半の学習では、電車を並べて数えたり、数字に置き換えたりする操作自体が面白くてやっているように見えたのです。電車そのものを直接的に楽しむ受け身な状態から、それを長さ・数に置き換え間接的なものにして、組み立てたり比べたりと自分自身で操作していくことを楽しむ状態に変化したのだと思います。

 白いタイルは、実物としてそこに在るが、くせもなく、とりたてて意味も持たず、面白みもない。だから「数」を取り出しやすい。形も大きさも色もそろったものであれば、様々な要素にまどわされずにどちらが多いか少ないか比較しやすい。ある程度重みがあるから風で飛んでしまったりしないし、小さいので机の上で扱いやすく、一目で見渡せる。この電車の顔はなんともかわいいとかこの車両の色はすてきだとか、この電車はどこからどこへいくのかとか、あの駅には止まらないとか…それはまた別のところで楽しみましょう、ということにして、今は電車の「数」を取り出してみる。であればいっそ何もない白いタイルのほうが話はそれないし、きっちり並べたり比べたりできる。

 とはいえ、あるお子さんとの学習では、白いタイルの裏側に貼ってある板の木目が気になりその向きをそろえることに熱中して数の話がどこかへ行ってしまったこともあるし、また、タイル一つ一つに顔があるかのように「桜井くん」とか「松潤」とか名前を付けて楽しんで完全に数の話を吹っ飛ばしてくれるつわものもいました!そういうときは、まあ、いいか、というほかありません…

 そして、かおりさんというお子さんとの記号・ひらがなの見本合わせの学習を思い出しました。発語は無いが形や色の分類ができるようになってきたかおりさんと、ひらがなカードで見本合わせをしたところ、興味がないのか席を立ってしまいます。もどってくると今度は正方形のカードの四隅を次々に噛んだりちぎったりして、だんだんカードは丸くなっていきました。新しくカードを作り直してもまた、噛んでしまいます。しかたないな、そんなに角が嫌いならばと、ひらがなカードの四隅を切って、丸いカードにしてみました。すると、かおりさんは見本と同じひらがなカードを取って並べ、丸いカードを上手に回して向きを微妙に調節し、ひらがながきちんと同じ向きに並ぶように置いたのです。四角いカードとは異なり、丸いカードは向きが微調整できます。そうか、これがおもしろかったのか…と気が付きました。

 また、このホームページに掲載してあるRくんの数の学習[1]の事例では、最初は普通のタイルで1から5までの学習をして、できるようになったら棒タイルを見本に、選択するものは色の異なるタイル、バラタイル、おはじき、ブロック、実物のスプーン…、と次々に替えていきました。1~5ができたら6~10はまた普通のタイルに戻し、同じように少しずつ数える物を替えていきました。ここまでくると、たとえば、タイル5個とブロック・マグネット2個で7を表すこともできるようになりました。対象が何であれ「数」として捉えることができるようになり、そのうちプリントされた問題もできるようになりました。(もちろん一般的なプリント学習ができればよいということではありません。)

つまるところ、子どもたちが興味を持つもの/ことはそれぞれですが、教材として使うには共通していることもある。単純に好きなものを使えばよいわけでもないし、だからと言って四角いタイルで数の勉強をすればよいということでもない。

どちらの方向に向かっているのか確かめながら、一人一人に向かい合って考えていく他ないという、ありきたりの結論しかないのですね…

2026.5.18 間野 明美


[1] 間野明美「関係性を学ぶ見本合わせ学習から文字・数をその意味と結びつける学習へ」山梨重複障害教育研究会2022冬季オンライン研究会 資料(本ホームページ→研究会資料→事例集)