コラム no.4:Kくんのローマ数字

Kくんが書いた1から100までのローマ数字

この写真はKくんがローマ数字で1(Ⅰ)~100(C)を書き表したものです。
1行に数字が5個ずつ、上半分には1(Ⅰ)から50(L)、下半分には51(LⅠ)から100(C)が、きれいに並んでいます。
あらためて書き写し、アラビア数字に対応させると次のようになります。

この、三角形のような山型が規則的に連なる美しい形には、Kくんの色彩感覚も加わり、数学が好きではなかった私でも、もしかしたら数学っておもしろいのかもしれない、と思ってしまうような力がありました。

ある日、担任の先生が「Kくん、すごいもの書いてるんですよ!」と持ってきて見せてくれたのがこのローマ数字の1から100でした。
Kくんは、日頃、人には絶対に見せない宝物を入れた大きな袋を持ち歩いていて、この1枚もその中に入っていました。家で書いたものらしく、ネットで見つけた何かを見て書いたのではないかとお母さんがおっしゃっていたそうです。
なかなか人には見せてくれなかったのですが、交渉してなんとか1枚写真を撮らせてもらいました。
後日聞いたところによると、ローマ数字は100を超えてさらに進化し書き続けられたとのことです。

Kくんは、しゃべらないけれど、物を見て素早く形を捉えること、一瞬の動きを画面に描き出すことが得意で、日頃から素晴らしい絵を描いていました。
きっと何かで目にしたこのローマ数字を気に入り、自分の作品として表していったのではないかと思います。

ローマ数字には「0」が無く、1~9の記号(Ⅰ~Ⅸ)を基本に、1(Ⅰ)、5(Ⅴ)、10(Ⅹ)、L(50)、C(100)などを組み合わせ、足したり引いたりして数を表していくので、並べて書いていくと規則正しい山型が連なっていく構造になっています。
古くから様々な物の数を表記し記録するために使われてきたもので、計算するのには不向きです。
それに比べると、アラビア数字には「0」があり、わずか10個の数字ですべての自然数を書き表し、位取りによって計算ができるようになりました。

これらの数字をさらりと眺めていると、アラビア数字には、どんなに大きな数でも簡単に書き表し計算して扱うことができるので、物がそこに在るという実感のない記号の世界を強く感じさせられます。
それに対してローマ数字には、Ⅰ、Ⅱ、Ⅲ…と量感を伴い、数が大きくなるにつれてリズミカルな山型の連なりも徐々に大きくなっていくという実感を伴う感覚があります。
記号ではあるけれど、どこか実感と重なり合う部分があり、そこに不思議な魅力が生まれるように感じます。

Kくんがローマ数字を書き連ねることを繰り返したのは、数字の構造による整然とした山形が作り出す造形美と色彩美の中に、このような記号と実感の重なり合いの面白さを感じ取っていたからではないかという気がしてきます。

Pantheon, Roma

2026.3.27 間野 明美